ADA法とは?英語サイトが突然訴えられる米国の訴訟リスク

執筆者 | 2026-08-22 | マーケティング関連

アメリカ市場向けに英語のウェブサイトを公開して数か月。ある朝、ニューヨークの裁判所から一通の訴状が届く——。これは脅し文句ではなく、アメリカで毎年5,000社以上に実際に起きていることです。あなたの会社の英語サイトが視覚障害のある方に対応していない場合、事前の警告なしに、ある日突然訴えられるリスクがあります。

本記事では、アメリカのADA法(米国障害者法)にもとづくウェブサイト訴訟の仕組みと最新データ、無印良品や紅花(Benihana)といった日系企業・日本発ブランドが実際に訴えられた事例、そして「英語サイトを公開すること自体がどこまでリスクなのか」という観点も含めた実務的な対策を、テキサス在住のマーケティングコンサルタントの視点から解説します。

【この記事の要点】

  • 2025年の米国デジタルアクセシビリティ訴訟は5,000件超。連邦分だけで3,117件・前年比27%増、2026年は約6,200件ペースで過去最多見込み
  • 無印良品の米国法人や紅花(Benihana)、個人経営の日本食レストランまで、日系企業・日本発ブランドが実際に提訴されている
  • 訴えられた企業の6割以上は年商2,500万ドル未満の中堅・中小企業。標的の約7〜8割はECサイト
  • 対策の軸はWCAG 2.1レベルAA。オーバーレイ型ウィジェットの後付けでは訴訟を防げない(FTCが誇大広告として100万ドルの和解措置)

ADA法とは?ウェブサイトも「店舗」と見なされる連邦法

ADA public image
ADA法(Americans with Disabilities Act)は、1990年に制定されたアメリカの連邦法で、障害を理由とする差別を幅広く禁止しています。日本語では「米国障害者法」と訳されるのが一般的で、内閣府の公定訳では「障害のあるアメリカ人法」とされています。このうちTitle III(第3編)が民間事業者に「公共の場(place of public accommodation)」での平等なアクセス提供を義務付けており、裁判所と米国司法省(DOJ:Department of Justice。日本の法務省に相当し、ADAの執行を所管する連邦省庁)は、企業のウェブサイトもこの「公共の場」に含まれるという立場を取っています。つまり、スクリーンリーダー(画面読み上げソフト)で操作できないサイトは、実店舗に段差スロープがない状態と同じ「違法な障壁」と判断されうるのです。
ややこしいのは、民間サイト向けに「これを満たせば合法」という技術基準の連邦規則が、いまだに存在しないことです。その空白を埋める事実上の物差しになっているのが、国際標準のWCAG(Web Content Accessibility Guidelines)2.1のレベルAAです。DOJは1990年代からADA法はウェブにも適用されるとの立場を示し続けており、2022年には公式ガイダンスを公表、2024年には州・地方政府向け(Title II)にWCAG 2.1 AAを正式な技術基準とする規則を確定させました。民間企業への波及は時間の問題と見られています。
日本との決定的な違いは「誰が動くか」です。日本でも2024年4月から改正障害者差別解消法により民間事業者の合理的配慮が義務化されましたが、違反に対する罰則や、個人が損害賠償を直接請求する仕組みは基本的にありません。一方アメリカは、障害のある個人が企業を直接訴えられる私人訴訟の国です。さらにニューヨーク州・市の人権法やカリフォルニア州Unruh法(違反1件につき4,000ドルの法定賠償)といった州法が上乗せされるため、「行政からの指導や改善命令の前に、いきなり訴状が届く」構造になっています。

年間5,000件超。データで見るウェブアクセシビリティ訴訟の今

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2025年にアメリカで提起されたデジタルアクセシビリティ訴訟は、連邦・州裁判所の合計で5,000件を超えました。連邦裁判所分だけでも3,117件と前年比27%増。2026年は6月中旬までの提訴ペースから年間約6,200件と、過去最多を更新する見通しです。法律事務所Seyfarth Shawの集計によると、2025年の連邦ウェブアクセシビリティ訴訟3,117件は、ADA Title III連邦訴訟全体(8,667件)の36%を占めるまでになりました。

標的の中心はECサイトです。2025年は全体の約7割、2026年上半期にいたっては79%がECを対象としており、飲食、アパレル、小売、ヘルスケアが続きます。州別ではニューヨークが連邦訴訟1,021件で最多。フロリダ、カリフォルニアに加え、イリノイ州は2025年上半期に前年比746%増と、新たなホットスポットになりました。

「大企業だけの話」でもありません。2025年上半期に訴えられた企業のうち、年商2,500万ドル(約37億円)を超える企業は36%。裏を返せば、6割以上は中堅・中小企業です。そもそもWebAIMの調査では、世界の上位100万サイトのトップページの約95%に何らかのアクセシビリティ上の問題が検出されており、「調べれば、ほぼどのサイトでも違反が見つかる」状態が訴訟の温床になっています。

無印良品も紅花も。日系企業が実際に訴えられた事例

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「日本企業は関係ないのでは」と思われるかもしれません。しかし、無印良品の米国法人Muji U.S.A.は2017年にニューヨークの連邦地裁で、日本発の鉄板焼きチェーン紅花(Benihana)は2022年に、いずれも視覚障害のある原告からウェブサイトのアクセシビリティを巡って提訴されています。

Lopez v. Muji U.S.A. Limited(ニューヨーク南部地区連邦地裁、事件番号1:17-cv-10018)は、2017年末に視覚障害のある原告が小売各社を相次いで提訴した「大量提訴の波」の一件です。同じ時期に同じ原告側から、Lord & TaylorやOscar de la Rentaといった著名ブランドも軒並み訴えられており、無印良品はその標的リストに含まれていました。

Cruz v. Benihana(2022年)では、ロッキー青木氏が創業しアメリカで最も知られた日本食ブランドのひとつであるBenihanaに対し、サイトがスクリーンリーダーで利用できず商品・サービスへの平等なアクセスが妨げられているとして、ADA法に加えニューヨーク市人権法・ニューヨーク州民権法違反を主張する集団訴訟が提起されました。

大手だけではありません。ニュージャージー州の日本食レストランAikouのような、日本人経営の個人店クラスの飲食店も、アクセシビリティ訴訟の被告リストに実際に名を連ねています。日本本社が把握しないまま、米国現地法人や米国向けサイトが訴訟の当事者になっているケースは決して珍しくありません。

日本から英語サイトを公開しているだけでも訴えられるのか?

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では、英語サイトを公開すること自体のリスクはどの程度なのでしょうか。実務的には、次の3段階で考えると整理しやすくなります。

リスクが最も高いのは、米国に法人・実店舗・従業員がある場合です。ADA法の直接の適用対象であり、前述の連続提訴の標的リストにそのまま載ります。次に高いのが、日本法人のまま米国向けに販売やサービス提供をしている場合。米国への商品発送、ドル建て決済、米国顧客向けサポートなどの実態があれば、米国の裁判所が管轄を認める可能性は十分にあります。特にニューヨーク州の裁判所は、事業者の所在地を問わず「ニューヨーク在住者がそのサイトを利用できる」ことを根拠に訴えを受理する運用で知られており、和解金を求めるデマンドレターは国境を越えて届きます。

一方、英語サイトはあるものの米国での事業実態がまだない場合、米国裁判所の管轄権(personal jurisdiction)という壁があるため、現実に提訴されるリスクは限定的です。ただし油断は禁物です。第一に、将来の米国進出・展示会出展・現地法人設立の瞬間から、既存サイトはそのまま訴訟リスク資産に変わります。第二に、英語で世界に公開する以上、視界に入るのは米国だけではありません。EUでは2025年6月に欧州アクセシビリティ法(EAA:European Accessibility Act)が適用開始となり、EU域内の消費者向けにECやオンラインサービスを提供する域外企業も対象になりえます。「英語サイトを公開する=各国のアクセシビリティ法制の視界に入る」と捉え、米国売上がゼロの段階でも、制作時点からWCAG準拠で作っておくのが最も安上がりな保険です。

なぜ「突然」訴えられるのか?連続提訴というビジネスモデル

lawsuit business model
警告なしに訴状が届くのは、偶然ではありません。少数の原告と弁護士事務所が、自動スキャンツールでWCAG違反のあるサイトを大量に発見し、和解金と弁護士費用の獲得を目的に集中提訴する「ビジネスモデル」が確立しているためです。

EcomBackの集計では、2025年上半期に提起された2,014件のうち、半数以上をわずか31人の原告が占めていました。特定の弁護士事務所が、ほぼ同一の文面の訴状を業種ごとに大量に提出する「シリアル・プレインティフ(連続原告)」構造です。近年はデマンドレター(事前の警告書)すら送らず、いきなり提訴する事務所も増えています。さらに生成AIの普及で訴状作成のハードルが下がり、弁護士を立てない本人訴訟(pro se)が連邦ADA Title III訴訟の約40%に達したという分析もあります。

一度和解すれば終わり、でもありません。2025年の訴訟のうち1,427件は「過去にすでに提訴されたことのある企業」への再提訴で、連邦訴訟の46%がリピート被告でした。表面的な修正だけで済ませると、数か月後に別の原告から再び訴えられるのが実態です。

「アクセシビリティ・ウィジェットを入れてあるから大丈夫」というのも危険な誤解です。2025年上半期の被告サイトの22.6%は、すでにオーバーレイ型ウィジェットを導入していました。米連邦取引委員会(FTC。日本の消費者庁と公正取引委員会を合わせたような連邦機関)は2025年1月、「ウィジェットだけで完全準拠できる」と宣伝した大手事業者accessiBeに対し、誇大広告として100万ドルの支払いを命じる和解を発表しています。ウィジェットは補助にはなっても、訴訟の盾にはならないのです。

訴えられたらいくらかかる?和解金と対応コストの相場

settlement cost image
ウェブアクセシビリティ訴訟の和解金は、一般に5,000〜50,000ドルが相場とされています。ここに自社側の弁護士費用、原告側弁護士費用の負担、サイト改修費、和解条件として課される定期監査の費用が加わり、総コストは数万〜十数万ドル規模に膨らむのが実態です。

連邦のADA Title III自体は金銭賠償を定めておらず、命じられるのは是正(差止)と原告側弁護士費用の負担です。しかし前述のとおり、実際の訴訟ではニューヨーク州法・市法やカリフォルニア州Unruh法(1違反4,000ドル)が併せて主張されるため、金銭的な圧力は連邦法単体よりはるかに大きくなります。判決・和解まで争った著名例では、Target社が全米視覚障害者連合(NFB)との集団訴訟で600万ドルの基金に加え原告側弁護士費用約370万ドルを負担し、ハーバード大学は動画字幕を巡る訴訟の和解で150万ドル超の弁護士費用を支払いました。

日本円に換算すれば、中小企業でも最低数百万円、こじれれば数千万円規模の「予定外の出費」です。20〜30ページの英語サイトを最初からWCAG準拠で制作する費用のほうが、はるかに安い——これが米国市場の現実です。

中小企業でもできるADA対策。WCAG 2.1 AAを軸にした5つの実務

website accessibility
対策の軸は、WCAG 2.1レベルAAへの準拠です。すべてを一度に完璧にする必要はありません。訴状で実際に指摘される頻度が高い、次の5点から着手してください。

  1. 画像に代替テキスト(alt属性)を設定する。訴状で最も多く指摘される項目です。商品画像・バナー・図表に、内容が伝わる英語の説明文を付けます。装飾目的の画像は空のalt属性で読み飛ばさせます。
  2. キーボードだけで全操作できるようにする。マウスを使わずTabキーとEnterキーだけで、メニュー開閉からフォーム入力、カートの決済完了までたどり着けるかを確認します。
  3. 文字と背景のコントラスト比4.5:1以上を確保する。白背景に薄いグレー文字のようなデザインは、見た目が洗練されていてもWCAG違反です。
  4. フォームにラベルとエラー表示を実装する。問い合わせフォームと決済フォームは訴訟の主戦場です。各入力欄に読み上げ可能なラベルを紐付け、エラー内容をテキストで明示します。
  5. 動画に字幕(キャプション)を付ける。聴覚障害への対応です。ハーバード大学が訴えられたのもこの論点でした。

診断は、自動チェックツール(WAVE、axeなど)と、スクリーンリーダーの実機テスト(WindowsならNVDA、Mac・iPhoneならVoiceOver)の二段構えで行います。自動ツールで検出できる問題は全体の一部にすぎず、ウィジェット任せが通用しないのと同じ理由で、実際の読み上げ確認が欠かせません。あわせて、対応方針と連絡先を記した「アクセシビリティ・ステートメント」をサイトに掲載しておくと、誠実に取り組んでいる証拠となり、一定の抑止効果が期待できます。

コラム:WCAG 2.1とは?

WCAG(Web Content Accessibility Guidelines)は、Web技術の国際標準化団体W3Cが策定するウェブアクセシビリティの国際ガイドラインです。「知覚可能・操作可能・理解可能・堅牢」の4原則のもとに達成基準が整理され、適合レベルはA(最低限)、AA(標準)、AAA(最高)の3段階。米国の訴訟や司法省の規則で事実上の基準とされているのが、中間のレベルAAです。
「2.1」は2018年に勧告されたバージョンで、2008年の2.0に、スマートフォン利用・弱視・認知障害への配慮など17の達成基準を追加したもの。レベルA+AAの達成基準は計50項目になります(2.0は38項目)。コントラスト比4.5:1やキーボード操作に加え、画面を200%に拡大してもレイアウトが崩れない「リフロー」、スマホ画面の縦横両対応といったモバイル時代の要件が加わったのが特徴です。
なお、日本のJIS X 8341-3:2016は一つ前のWCAG 2.0と同一内容のため、日本の基準で制作したサイトでも、米国で問われる2.1対応には差分17項目の追加確認が必要です。最新版は2023年勧告のWCAG 2.2。米国の実務は当面2.1 AAが軸ですが、これから新規制作するサイトは2.2 AAでの準拠をおすすめします。

WordPressサイトなら:導入を検討したいアクセシビリティ・プラグイン

wordpress website accessibility plugin
日本企業の英語サイトはWordPressで構築されているケースが多いため、実務で評価の高いプラグインも紹介しておきます。第一候補はAccessibility Checker(Equalize Digital製)です。記事の保存・公開のたびにWCAG 2.2ベースの40項目超を編集画面内で自動スキャンし、問題箇所・修正方法・該当コードまで示してくれます。よくある不備の自動修正機能や、アクセシビリティ・ステートメントの雛形生成も備え、無料版から使えます。NASAがCMSにWordPressを採用した際の決め手になったことでも知られる定番です。

あわせて入れたいのがWP Accessibility(Joe Dolson氏製)。スキップリンク、フォーカス表示、ARIA属性など、テーマ側に起因する構造的な不備を無料で補修してくれるため、Accessibility Checkerとの併用が定番の組み合わせです。サイト全体を一括診断したい場合は、WCAG 2.2 A/AAとSection 508基準でスキャンできるWP ADA Compliance Check Basicも選択肢になります。

一方、accessiBeやUserWayに代表されるオーバーレイ(ウィジェット)型プラグインは、「入れるだけ」で完結する手軽さが魅力に見えますが、前述のとおり導入済みサイトも現に提訴されており、FTCの措置対象にもなりました。プラグインはあくまで「問題の発見と修正を効率化する道具」であり、HTMLそのものを直すことの代わりにはならない——この原則だけは押さえておいてください。

そして最大のポイントは、後付けの改修よりも、制作段階から組み込むほうが圧倒的に安いことです。AIを活用した制作フローであれば、alt属性の一括生成、見出し構造やコントラストの検証を、従来の人手の数分の一のコストで実装できます。しかも、適切なalt属性・論理的な見出し・構造化されたHTMLは、GoogleのSEOや、ChatGPT・AI Overviewsといった生成AI検索に引用されやすいサイト構造そのものです。アクセシビリティ対応は、法的リスクの回避と集客力の強化を同時に実現する投資だと私は考えています。

まとめ:訴状が届く前に、英語サイトの健康診断を

アメリカのウェブアクセシビリティ訴訟は年間5,000件を超え、なお増え続けています。無印良品や紅花のような日本発ブランドも実際に訴えられており、標的の6割以上は中堅・中小企業。米国で事業実態があれば所在地に関係なく提訴されえますし、まだ米国売上がない段階でも、進出した瞬間に既存サイトがそのままリスクに変わります。対策の軸はWCAG 2.1 AAであり、ウィジェットの後付けではなく、制作・運用のプロセスに組み込むことが唯一の本質的な防御です。

「うちの英語サイトは大丈夫だろうか」と少しでも不安を感じた方は、JU Marketingにご相談ください。テキサス在住のシニアコンサルタントが、AIを活用しながら、SEO・AI検索対応と一体でアクセシビリティの診断から改善までをサポートします。訴状が届いてからの数万ドルではなく、届く前の一手を。お問い合わせフォームからお気軽にどうぞ。関連記事「アメリカのホームページ制作会社の選び方」もあわせてご覧ください。

出典・参考資料

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